第5回
甘い物はストレス解消に最適なのか?
公開日: 2017年1月5日木曜日
仕事上のストレスはどこに原因がある?
皆さんは仕事をしていて、ストレスを感じたことはありませんか?
平成27年労働安全衛生調査(実態調査)の結果の概況1)をみると、現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は、55.7%にもおよぶそうです。やはり、仕事をするうえで、ストレスはつきものですよね。
では、そのストレスになっている内容には、どのようなものがあるのでしょうか。
同調査において、ストレスになっている内容の上位3つをみると、「仕事の質・量」(57.5%)が最も多く、ついで「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」(36.4%)、「仕事の失敗、責任の発生等」(33.2%)と報告されています。
最近では、企業の人手不足が職場にさまざまな影響をおよぼしていると言われています2)。労働政策研究・研修機構の「人材(人手)不足の現状等に関する調査(企業調査)及び働き方のあり方等に関する調査(労働者調査)結果」3)でも、人手不足が職場におよぼす影響として、「時間外労働の増加や休暇取得数の減少」(69.8%)、「従業員間の人間関係や職場の雰囲気の悪化」(28.7%)や「教育訓練や能力開発機会の減少」(27.1%)、「従業員の労働意欲の低下」(27.0%)、「離職の増加」(25.6%)などが報告されています。
上記のストレス内容と人手不足の影響を見くらべてみると一致している点も多く、職場の人手不足がストレスに大きく関与しているのかもしれません。
快適な職場を作るには
フルタイムの労働者は、1日のうちの約3分の1の時間を職場で過ごしています。それだけの長時間にわたって、労働者は上記のようなストレスの多い環境下に置かれているのです。そのため、労働安全衛生法でも、労働者が働きやすい快適な職場環境を整えることが、事業者の努力義務であると明示されています4、5)。
特に、働きやすい職場の環境作りのためには、事業者が労働環境や休憩室などのハード面を整備するだけでなく、職場の人間関係や仕事のやりがいなどのソフト面(心理的・制度的側面)へのサポートが求められています4)。
ただし、この快適職場のソフト面には、労働者の個人差が大きいことも指摘されており、職場として取り組むべき内容を良く検討したうえで実施することが重要です。職域のストレス・マネジメントは歯科医療関係者が関われる内容も多く、今後は積極的な関与が期待される分野です。
労働者にとって快適な職場環境を整えるために考慮すべき事項は、「快適職場指針」5)や「快適職場指針のポイント」6)などにまとめられています。
疲れたときに甘い物をとることも快適職場づくりなのか
私たちは疲れたときに、甘いおやつに『ひとときの癒し』を求めたりします。適量であれば問題ないのですが、いつでも手軽に甘い物を飲食できるようにすることが快適職場づくりのソフト面の一部として提案されることがあるようです。
快適職場が労働者の個人差にも配慮すべきものであることを考えると、労働者の疲労回復の手段として、甘い物の摂取を提案したくなるのも理解できます。
近頃ではオフィスグリコという、職場の手に届きやすい場所におやつ箱を常備しておき、いつでも手軽におやつを買えるようなビジネスまで存在しています7)。
しかし、いつでも手軽に甘い物を摂取できる環境は、職場における口腔保健の推進という観点からは、あまりお薦めできません。
・ リフレッシュのために、炭酸飲料を飲む
・ ストレス解消のために、ガムを噛む
・ 風邪による喉の違和感の解消のために、のど飴をなめる
といった行動は習慣化しやすく、糖分の摂取も過剰になりがちです。
突然、う蝕が多発しはじめた労働者の生活習慣の変化を聞いてみると、上記のような行動の習慣化が推測されることがよくあります。そのような時には、う蝕への対応を考えるだけでなく、糖分の過剰摂取が発症のリスク要因となる生活習慣病への適切な対応(保健指導や受診勧奨など)も同時に必要になることが多いです。
快適職場づくりで、いつでも手軽に甘い物を飲食できるような職場環境を習慣化してしまうと、糖分の過剰摂取による生活習慣病のリスクにさらされる人が増えるため、快適職場づくりの取り組みとしては避けるべきと考えられます。
遊離糖類の過剰摂取のリスクとWHOの提言
糖分の過剰摂取のリスクについては、WHOなどでもよく扱われているテーマです。
遊離糖類(製造元や料理人、消費者が食物に加えた単糖類や二糖類、および蜂蜜やシロップ、果物ジュースに天然に存在する糖類)の摂取に関するWHO/FAOの合同専門家会議では、遊離糖類の過剰摂取は糖尿病や肥満、う蝕などの生活習慣病に共通したリスク要因であると報告されています8)。
遊離糖類の過剰な摂取は、システマティックレビューのテーマとしても扱われており、たとえば、食物中の糖類と体重との関連をみたシステマティックレビュー9)の結果からは、食物中の糖類の摂取を減らすと体重が減少し、逆に糖類の摂取を増やすと体重も増加するという傾向がみられています。
また、糖類摂取とう蝕に関するシステマティックレビュー10)では、遊離糖類の摂取を総エネルギー摂取量の10%未満に抑えると、う蝕が減少するという結果が示されています。
このシステマティックレビューのデータからは、遊離糖類の摂取を総エネルギー摂取量の5%未満まで制限すると、ライフコースにおけるう蝕のリスクを最小化できる可能性も示唆されています。
WHOは、2015年3月に「1日の糖類は小さじ6杯分(約25g)までに制限すべき」という指針を出したことが話題となりました11、12)。平均的な成人では、「小さじ6杯分まで」の糖類摂取は「総エネルギー摂取の5%未満」と同量であり、前述のようにう蝕のリスクを最小化できる可能性がある量に相当します。
さらにWHOは2016年10月にも、肥満や糖尿病、う蝕などの生活習慣病を減少させるために、砂糖入りの飲料に課税をして消費量を減らすべきであると提言しています13、14)。
生活習慣病を減らすための国際的な取り組みとして、WHOなどの国際機関でも糖質の摂取を減らす提言がなされていることは、歯科医療関係者も把握しておく必要があります。
参考文献
1)厚生労働省:平成27年労働安全衛生調査(実態調査)の結果の概況.
2)PRESIDENT Online:人手不足より深刻な人材不足の危機.
3)労働政策研究・研修機構:人材(人手)不足の現状等に関する調査(企業調査)及び働き方のあり方等に関する調査(労働者調査)結果.
4)厚生労働省:職場のソフト面の快適化のすすめ.
5)中央労働災害防止協会:快適職場指針について.
6)央労働災害防止協会:快適職場指針のポイント.
7)グリコ:オフィスグリコ.
8)Nishida
C, Uauy R, Kumanyika S, Shetty P. The joint WHO/FAO expert
consultation on diet, nutrition and the prevention of
chronic diseases: process,
product and policy implications. Public Health Nutr. 2004;7(1A):245-50.
9)Morenga LT, Mallard S, Mann J: Dietary sugars and body weight: systematic
review and meta-analyses of randomised controlled trials and cohort
studies
BMJ 2013;346:e7492
10)Moynihan PJ, Kelly SAM: Effect on Caries of Restricting Sugars Intake.
Systematic Review to Inform WHO Guidelines. J DENT RES 2014; 93: 8-18.
11)World Health
Organization:WHO calls on countries to reduce sugars intake among adults and
children.
http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2015/sugar-guideline/en/
12)日本経済新聞:1日の糖類は小さじ6杯分まで WHOが新指針.
13)World Health Organization:WHO urges global
action to curtail consumption and health impacts of sugary drinks.
14)毎日新聞:WHO「砂糖を多く含む」清涼飲料水に課税を.
0 件のコメント :
コメントを投稿